No.1
著者 | 矢野幸治・安村明・瀧本禎之 |
タイトル | 神経発達症を対象とした脳科学研究における結果返却の諸問題― 返却までの流れと課題の検討 |
公開日 | 2023年9月1日 (2023年10月27日一部修正) |
要旨 | 近年、神経発達症を対象とした脳科学研究は多く取り組まれるようになっており、急速に発展してきている。将来的にはスクリーニングや診断などを補助する客観的指標としての有用性が期待されている一方で、研究で得られた結果をどのように研究参加者やその家族に返却するのかという倫理的課題に直面する可能性も大いに考えられる。しかしながら、この分野における結果返却に関するガイドラインなどは存在しない。 そこで筆者らは、結果返却において生じうる倫理的問題に共通点があることや、その問題に対して先駆的に取り組んでいることから遺伝子研究分野に焦点をあて、先行研究やガイドラインなどを参照した。それらの知見を踏まえ、神経発達症を対象とした脳科学研究で起こりうる結果返却の問題を列挙し、起こりうる問題に対しての対応方法や検討する流れ(プロトコル)を作成した。 これらの問題に対して、議論を継続していくことで、更なる研究の発展につながっていくと筆者らは考える。 |
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No.2
著者 | 和田慈・瀧本禎之 |
タイトル | 脳科学技術のテクノロジー・アセスメント ― 予防原則から何が言えるか |
公開日 | 2024年10月1日 |
要旨 | 本レポートは、脳科学技術のテクノロジーアセスメント(TA)に対する予防原則の適用可能性を検討している。予防原則とは、深刻な被害のおそれがある場合、科学的確実性が不足していても予防的な対策を講じるべきとする考え方を指す。本レポートはこの原則の意義と用法を分析し、脳科学技術のもたらしうる諸問題に適用の試案を提示した。分析の結果、この原則は特に、問題への対処の動機が欠如している場面や、望ましい状況からの逸脱が大きく復帰が困難な場面で有効に機能することが判明した。また、脳科学技術は研究開発や社会への浸透の進展に伴い、予防原則の標的となる場面を異なる仕方で抱えていくことになるが、本レポートは複数の局面とそこでの技術の影響に注目し、予防的措置の算段と当否を論じている。予防原則はそうした措置の選択に寄与するが、その適用には価値判断や制度設計上の課題が存在するため、実際の運用には注意が必要となる。 |
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No.3
著者 | 銭雅純・安村明・瀧本禎之 |
タイトル | 国際動向の把握:中国の研究倫理指針について |
公開日 | 2024年10月21日 |
要旨 | 近年、中国における研究倫理指針は急速に進展しており、生物医学研究や臨床研究の分野で大きな役割を果たしている。特に、個人情報保護やデータ管理に関する規制が強化されており、研究者や医療機関に対して厳格な基準が設けられている。しかしながら、日本との比較において、倫理指針の運用面やガイドラインの適用に関する相違点が見受けられる。 本研究では、中国と日本の研究倫理指針に焦点を当て、両国のガイドラインの特徴と違いを検討した。また、中国における精神疾患を対象とした臨床研究の倫理指針に着目し、現地での調査結果をもとに、倫理指針の遵守状況とその運用における課題を分析した。 その結果、両国に共通する倫理的な問題点が明らかになり、それに対する取り組みや改善の方向性について考察した。今後、倫理指針の適用に関するさらなる議論を進めることで、研究の発展とともに、研究参加者の権利保護が一層強化されることが期待される。 |
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No.4
著者 | 鶴田想人・村瀬泰菜・岡本隣・瀧本禎之 |
タイトル | 「有徳な無知」の概念から脳神経科学を考える |
公開日 | 2024年10月31日 |
要旨 | 近年、科学技術と社会における「無知」の役割に関心が集まっている。科学史における無知を探究する無知学においても、歴史上、何らかの価値判断に基づいてあえて知識が放棄される「有徳な無知」と呼ばれる事例が指摘され、その応用可能性が模索されてきた。 本倫理レポートでは、この「有徳な無知」について、1)先行研究のレビューによりその特徴を整理し、2)既存の倫理学との比較を通じてその「有徳さ」の基準を検討し、さらに3)この概念の脳神経科学への応用可能性の一端を示した。 有徳な無知とは、知識よりも無知があえて選択されてきた歴史的事例を見出し、それらに内包される倫理的判断に学びつつ、何が「有徳」かという基準そのものをその都度構築しながら科学技術の規制について考えてゆく、「発見法(heuristic)」としての概念であると言える。 今後、このような無知の概念を踏まえた、科学技術の倫理やガバナンスの考察が望まれる。 |
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No.5
著者 | 村瀬泰菜 |
タイトル | EUにおける脳神経科学研究をめぐる倫理指針の変遷 |
公開日 | 2024年10月31日 |
要旨 | 1990年代以降、脳神経科学研究は目覚ましい発展を遂げていますが、一方でその研究開発や社会実装の過程には、物議を醸す倫理的課題が多く含まれています。近年では、脳神経科学研究の倫理的・法的・社会的課題(Ethical, Legal and Social Issues:ELSI)を論じる脳神経倫理の研究が進展し、その中で、社会的・人間的価値を脳神経科学研究の進展や利用に統合する倫理ガイドラインの作成や法制化が求められるようになっています。脳神経科学研究において何が問題となるのかを判断する倫理規範は、文化的背景に応じて地域ごとに多様であり、それぞれの価値体系に即した規制枠組みの構築が目指されます。本レポートでは脳神経科学研究の進展が著しい欧州に焦点を合わせ、脳神経科学研究をめぐる倫理的課題がどのように認識され、いかなる価値や倫理規範から規制が試みられているのかについて、SATORI、SIENNA、TechEthosの3つの研究プロジェクトに着目し、EU水準での議論の変遷を明らかにします。 |
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